キャスパーの憂鬱
「はぁ…」
星を見ていた。
あんなに大きな騒動があったというのに、星たちはいつもと変わらない光を放っていた。
「………………」
ジルバラードの星空と、私が生まれた世界の星空…
どっちの方が綺麗なんだろう…
アタシはおじいちゃんに拾われる前の記憶が無い。
だから、向こうの世界の星空がどんなものかなんて分からない。
でも、きっとジルバラードの星空の方が綺麗だと思う。だぶん。
だって、ジルバラードの星空はこんなにも綺麗なんだから…
「あれ? キャスパー、こんなところで何してるの?」
…一人になりたくて、わざわざ屋根の上まで来たってのに。
なんて間の悪いやつなんだ…まったく。
「別に。アンタこそ、こんな所に何しに来たわけ?」
「うん、部屋の窓から空を見てたら星がすっごい綺麗だったから。ここから見ればもっと綺麗かな〜って」
そう言うと、この愚姉−ウィンディア−はアタシの隣に腰を下ろした。
「…誰が隣に座っていいって言った?」
「えー? 別にいいじゃん。お姉ちゃんなんだしー」
でたよ。
ウィンディア必殺"お姉ちゃんだからOK理論"
そもそもコイツを姉と思ったことなんて、ほとんど無い。
どちらかと言えば、世話のかかる妹って感じだ。
無神経なやつだと思ったら、変なところでおどおどしたり…
見てて危なっかしいというか、ほっとけないというか…
「すっごい綺麗な星空だね…」
ウィンディアは目をキラキラ光らせて星を見ている。
いつもは意見が合わないけど、この星空を見て綺麗だと思うのは同じらしい。
…なんか癪にさわる。
「星ってこんなに綺麗だったんだね…。
あっちの世界じゃ、じっくり星を見ることなんて無かったからなぁ」
そっか。
コイツには向こうの世界の記憶があるんだ。
ジルバラードの星空と、向こうの世界の星空。
どっちの方が綺麗なのか…ウィンディアに聞けば分かるかな?
「ねぇ、向こうの世界の星空とジルバラードの星空、どっちの方が綺麗なの?」
「え? うーんと…そうだねぇ…」
腕を組んで頭をひねるウィンディア。
あぁ、ひねる頭持ってたんだ。少し安心したよ。
「…やっぱりジルバラードかなぁ。
向こうの世界じゃ、こんなにたくさんの星は見られないし」
やっぱりか、アタシの思った通り。
こんなに綺麗なんだもん。当然ね。
「でもねー、向こうの星空でしか楽しめない物もあるよ?」
なんだって? それはちょっと気になるかも。
「どんなの?」
「えっとね、星座って言ってね」
「あぁ、星座ね…」
何かと思えば星座か。それくらいは知ってる。
たしか、星と星を線で結んで…絵っぽく見えるってやつだっけ?
「ちょっとちょっと! 何よその『何かと思えばそんな事かよ』みたいなリアクションは!!」
「大正解」
「むぅー!!」
ウィンディアは頬を膨らませ、じたばたし始めた。
あぁ、うるさいうるさい。
でも、星座か…
ジルバラードの星達も、線で結べば絵になるのかな?
向こうの世界の星空、星座…
見てみたい気もしないこともないかな。
「…あ」
雪が降ってきた。
ってことは、明日は雪かきかな…
「あらら、雪が降って来ちゃったね」
そう言うと、ウィンディアは立ち上がった。
「そろそろ戻ろっか? 冷えてきたし」
「…アタシはもう少し残る」
「でも寒いよ?」
「アタシは寒くないの」
「そっか。それじゃあ、これ」
ウィンディアは身に着けていたマフラーをアタシの首に巻いた。
「な、なんだよ…」
「風邪ひかないようにね。あと手袋も貸してあげる」
そう言って、手袋も渡してくる。
「それじゃ、お休みキャスパー」
ウィンディアは屋根からジャンプして降りて行った。
ちょっと前までは「高いよ!!怖いよ!!」とか言ってたのに。
…大丈夫とは言ったけど
正直寒いから、早速ウィンディアの手袋をすることにした。
「…あったかい」
ウィンディアは普段、トロいし、役に立たないし、散々だけど…
たまに、ほんと極稀にだけど、おねえちゃんっぽく見えるときがある。
「はぁ…」
アタシは何考えてたんだっけ?
…そっか、向こうの世界にいる両親のこと考えてたんだっけ。
顔も名前も、どんな人柄だったかさえ思い出せないけど。
アタシのこと心配してくれてるのかな?
…でも、まぁいいか。
今のアタシには、大切な家族がいる。
向こうにいる両親も家族だけど、
ディオール家のみんなも正真正銘本物の家族だもん。
あぁ、なんかスッキリしたかも。
悔しいけど、ウィンディアのおかげかもね。
さ、アタシも部屋に戻ろうかな。
かなり寒くなってきたし。
騒がしいハロウィンも終わって、ジルバラードは冬に突入か…
「次のパーティはクリスマスか…」
ハロウィンはお城で豪華なパーティだったけど、
クリスマスは家であったかいパーティの方がいいかも。
季節が変わっても、年が変わっても
この星空は変わらないでいてくれるよね?
「ふふっ…おやすみ」
そう星空に告げて、アタシは部屋へ向かって飛び立った・・・
(だいじょーぶ。きっと、とびっきり楽しいクリスマスになるもんね…)
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あとがき
デススマイルズUX発売記念に書いたSS。
「元の世界の記憶が無い」ということは、今までキャスパーは元の世界について深く考えた事は無かったんじゃないかなーと。
だって、分かんない事を考えるのは難しいじゃないっすか。
ジルバラードに来てからの記憶しかないキャスパーは、「自分は別の世界の人間で、元の世界には両親がいる」という事を頭では分かっていても、どこか他人事なところが少なからずあったんじゃないかなと思います。
でも、ハロウィン大騒動の一件で、元の世界に帰れるチャンスを目の前で見て、少しは元の世界のことを考えたんじゃないかなぁ、と。
星座のくだりは完全な脳内設定なので、実際どうなのかは分かりゃーせん。
でも違う世界だし、星の位置も違うでしょ。
そしてウィンディアとキャスパーはかわいいなぁ、と。
キャスパーは安定した高萌性能と高萌火力の持ち主なのに対して、
ウィンディアは通常萌性能こそキャスパーに劣るものの、クリティカった時はキャスパーを凌ぐ超絶高萌火力をたたき出す。そんな感じ。
ということで、レイきゅんには普通に嫉妬しています